さり海馬

Thoughts walk away, blog stays.

作り込まない、という選択


オフィス家具のデザインも、「作り込まない、余地があるデザイン」、「引いたデザイン」になっていくだろうという。大枠は決めるが、細かいところまでは突き詰めないデザイン、ということだ。

「0.5はデザインするが、残りの0.5はユーザーが決める。そんなデザインのほうがこれからは向いている」と若杉氏は語る。

建築にしても、ようやくスケルトンとインフィルを分けるという発想が生まれ、あとでインフィルは動かせるようにしておくという形が取られるケースも出てきたが、現状ではまだまだだという。どうしても最初から作り込んでしまい、一度作るとなかなか変えられない「重たい空間」を作ってしまうケースが多い。そんななかで内田洋行は、ハード面ソフト面両面において中間的な「ミドルウェア」を作ろうとしていると言えるのかもしれない。

もし、建築においても「0.5だけ作る」ことができるようになれば、用途や装備したい情報デバイスが未確定であっても、そのリスクを先送りにできる。いや、常に場が用途に応じて変わっていくとすれば、常に建築途上、といった形をとったほうがいいのかもしれない。

変わるのはオフィスだけではない。初めにこれからのキーワードは「場」だと述べたが、これからの「場」は、固定的・限定的なものでなく、その時の状況に応じて多義的な空間になっていくだろうというのが両氏の考え方だ。現在は、職場に置かれる家具と、家庭のリビングに置かれている家具のデザインは全く違う。

だがこれからは、両者の間はどんどん近づいていく。「○○専用」ではなく、あるときはリビング、あるときは仕事場、あるときはプレゼンルーム、そんなふうに空間そのものの意味が状況に応じて変わっていくのではないかという。あたかも、日本の昔ながらの居間が、ちゃぶ台1つ置くとダイニングになり、片づけると寝室へと変わったように。

技術者によくあるパターンだけど、こだわりすぎるあまり突き詰めてしまって、想定以外の使い方を許さないような仕組みを作ってしまうことがある。

でも、使う人によって正解は異なるわけで、そうした違いを飲み込むだけのゆとりを予めデザインとして用意しておくという発想は大切だなぁ、と。この使いよさそうな空間を見て思うわけだ。

「ゆとりは重要です」と渡辺篤史も言ってるし(笑)。