さり海馬

Thoughts walk away, blog stays.

「オカルトでっかち」読了

オカルトでっかち (朝日文庫)

オカルトでっかち (朝日文庫)

スケプティックス、という言葉があります。これは「懐疑派」というような意味の言葉で、より狭義には「オカルト的なものを懐疑しようとする人たち」を指します。古くはフーディニとか、最近だと大槻教授*1みたいな人たちですね。あ、そうそう。「トンデモ本」なんかで有名な「と学会」なんてのもその中に入るでしょう。

この本の基本的スタンスは最初、「超常現象があるものなら、できれば信じてみたいものだ。しかし、色々な懐疑を乗り越えて僕を説得してくれるような現象や理論は、まだない。さみしい」という感じから始まっているのですが、最終的には「超常現象と称したイカサマ、偽物の奇跡、疑似科学を金儲けのために利用している連中に対する揶揄、面罵」になってしまっています。

このため、最初の方はふんふん、と割と楽しく読んでいけるのですが、後に行くに従って、なんか嫌な印象になっていきます。これは丁度、その場に居ない人の悪口を聞かされているようなそんな感じ。ツッコミの語り口がちょっと偏執的なところがあるのね。その感じは、サイババとか宜保愛子の著書から部分的に引用して、それに一言ツッコミを入れる、というようなやり方をしている部分に特に強く出ていて、ちょっと見苦しい。

私自身について振り返ってみると、ネタとしての心霊体験とか超常現象とかが割と好きな方なのですが、全く霊感というものがなく、またそういう機会に恵まれた(?)こともないため、信じるとも信じないとも言えない人です。私の見たことのないところに、そうしたオカルトはあるのかも知れませんが、今のところそうしたものを無批判に飲み込んでいく気持ちにはなれません。*2

むしろ、そうしたものをダシに商売をしようとしている人や、それに騙されている人を見ると、非常にイラつく。そういう意味では、筆者と同じようなスタンスと言えるでしょう。

この本の作者である松尾貴史は、TVタレントです。以前はキッチュの芸名で岡本太郎の顔真似とかしてたあの人。彼はこの本の中で、自分が以前「オカルト大好き少年」であったことを認めています。というか、割と最近まで「まぁあるかも知れない」ぐらいの人だったようです。

その彼を変えてしまったのが、子供の誕生、オウム事件阪神淡路大震災での知人の死だったといいます。私としては、彼のオカルト批判自体よりも、彼を変えてしまったこうした心の動きの方に興味があるところです。しかし、そのことについては多く語られていません。むしろそういう意味では、巻末にある夏目房之助の解説が興味深かったのですが。

そんなわけでこの本、あんまりお奨めしませんが、まぁ、暇なときにでもどうぞ。宗教の勧誘を断るのには便利かも知れません。まぁ、害にはなりません(笑)

*1:この人はこの人でまたアレなんですけど

*2:私はテーブルトークRPGとかをよくやります。その世界設定には宗教も奇跡も魔法もカルトも一杯出てきます。が、それは「楽しい遊び道具」であって、それ以上でもそれ以下でもありません。脳内の玩具ですね。玩具には支配されたくありません