さり海馬

Thoughts walk away, blog stays.

SF魂

…えー、すこし昔話になります。遠い目で見てやってください。

SF魂 (新潮新書)

SF魂 (新潮新書)


漫画星雲の手塚治虫星系の近傍にSF惑星が発見され、星新一宇宙船船長が偵察、矢野徹教官が柴野拓美教官とともに入植者を養成、それで光瀬龍パイロットが着陸、福島正実技師が測量して青写真を作成……。いち早く小松左京ブルドーザーが整地をしてね、そこに眉村卓貨物列車が資材を運び、石川喬司新聞発刊、半村良酒場開店、筒井康隆スポーツカーが走り、豊田有恒デパートが進出、平井和正教会が誕生、野田昌宏航空開業、大伴昌司映画館ができ、石原藤夫無線が開局、山野浩一裁判所が生まれ、荒巻義雄建設が活躍――

角川書店の単行本(確か緑色の背表紙で、生頼範義が表紙を描いていたと思う)を貪るように読んでいた、当時リアル厨房だった自分にとって、この作家はいわゆるSF御三家*1の中でも別格の存在だ。

この人のすごいところは、「ブルドーザー」と称されるほどの行動力と好奇心、それに得た知識を系統立てて網羅的に分類できる分析力にあると思う。まるで好奇心旺盛な巨人が箱庭を作っているさまを見るようだ。

そして何よりすごいのは、そうした知識を蓄積しておきながら、人間というものに対して絶望していないところ。可能性を信じている。簡単にペシミズムに逃げていないところに敬意を抱く(…と同時に、なんて頑固かつ能天気なオッサンだと少しあきれる(笑))。

今になって気づくんだけど、自分の文体はかなりこの小松左京に影響を受けている。特に強調にカギかっこを多用するあたり。うーん、影響って自分ではわからないんだな。

映画「さよならジュピター」のくだりは、リアルタイムで経験した自分にとってとても懐かしく思える*2。当時、同期のSF好きに誘われて、学校をサボり、よりによって学生服のままその映画が撮影されている撮影所に行こうとしてその友人*3にたしなめられるほどの田舎者だった自分、今思い出しても恥ずかしい(笑)。

たしかそこには当時、「連合艦隊」という映画で使用された戦艦やら駆逐艦やらの大きなモデルが野ざらしになっていた。映画というのは無駄にカネを使うもんだな、と思ったのを覚えている。

…ああ、話が逸れたな。

この本は短いけど、文体もわかりやすく、内容も平易で整理されている。昔のSFがどんな雰囲気だったのかを俯瞰するにはとても便利な本だ。俺と同年代の人にお勧めしたい。

*1:星新一筒井康隆小松左京

*2:正直に言って、映画としてはかなり低レベルの代物だった。残念なことに。

*3:面白いことに、今では特撮分野では日本有数の映画監督の一人になった