Eclipse Phase レビューを訳してみた
Eclipse Phase: The Roleplaying Game of Transhuman Conspiracy and Horror
- 作者: Lars Blumenstein,Rob Boyle,Brian Cross
- 出版社/メーカー: Catalyst Game Labs
- 発売日: 2009/10
- メディア: ハードカバー
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Eclipse Phase は Posthuman Studio が製作した、トランスヒューマンな PC で破滅後の未来世界を扱う TRPG です。Shadowrun 4th に関わった Rob Boyle が製作しています。この RPG は、書籍でも販売していますが、PDF ファイルをフリーで配布して、気に入ったら $15 送ってよ、というユニークな流通方式を取っています。
- Eclipse Phase サイト
内容もなかなかに面白そうな感触だったので、紹介方々、RPGnet に載ったレビューの一つを翻訳してみました。かなり大雑把な訳ですが、よかったら読んでみてください。
まず本文はこちら→ Review of Eclipse Phase | RPGnet
レビューを始める前に、僕は EP に対して贔屓目であることを言っておこう。作者たちはこの膨大で、洗練された、プロにふさわしい仕事であるゲーム書籍を作り出し、そしてそれを無料で、制限なしで配布するという、勇気ある一歩を踏み出しているからだ。
ヒィィィィィ!
僕の最初のリアクションがこれだった。わざわざウェブサイトまで出向いて、マジなのかどうかを尋ねたほどだ。マジだった。だから、ファイル共有サイトから EP のファイルをダウンロードしたとしても、それは全く違法じゃない。ファイルを保存しておくならお金を払うべきだが、強制力があるわけじゃない。ゲーマーの心意気って奴を見せてやろうぜ、みんな。
無料の RPG はたくさんあるが、EP ほど洗練された、プロフェッショナルな出来のものは僅かだ。作者たちはこのやり方をネットと、ホーム・コンピューター、PDF、POD などによって作り出された新しい経済のモデルに基づいた、新しいマーケティング的観点なんだと言っている。
僕はこの立派な仕事をみんなに広める必要があるし、そのチャンスを利用しなきゃならない。僕は彼らの剛毅さに、そしてゲーマーたちが気に入ってくれたなら、少なくとも15ドルを支払ってくれると信じていることに対して、敬意を抱いている。
さて、僕の贔屓具合については認めて、説明も済んだことだし、レビューを始めるとしよう。
Eclipse Phase は、ハードSFで、トランスヒューマニストで、破滅後の世界、という世界設定を持っている。アニメの影響も大きい。ストーリーラインはこんな感じだ: 今から約200年後、生命は地球から太陽系全体ひ広がっていた。そして人類は遺伝子改変、サイバー強化によって超人類へと進化し、人工知能の指導の下、太陽系の開発へと乗り出していた。
やがて、TITAN と呼ばれる軍用AI群が人類を攻撃し、そのほとんどを壊滅させた。その過程で地球は荒廃し、地上に残った殺戮機械や有害なナノテク・システムなどのために居住不能の世界となった(EPの世界では TITAN はきわめてブギーマン的存在だが、その素性はほとんど明らかになっていない)。
そのすぐ後に、TITANたちは姿を消し、後には正体不明の「パンドラ・ゲート」が残された。これは異世界への門だ。「スターゲート」だね。(コンドームネタをやる奴がいると思うからその前に言っておくが、TITAN とは Total Information Tactical Awareness Network、つまり情報統合戦略意識網のことだ)。<訳注> そういう名前のコンドームがあるんですよw
地球を失ってから10年の間にも、さまざまな形態で人類は進歩していった。社会のほとんどはハイパーコーポと呼ばれる、「旧来の」メガコーポをより賢く、強靭で、スリムで、卑劣にしたバージョンの企業群によって支配されており、そこで人々は以前よりももっと置き換え可能なリソースとして扱われている。地球壊滅の寸前に脱出した人々の多くは身一つの(時にはその「身」すら持たない)難民たちであり、彼らはすぐさまハイパーコーポによってバーチャルな奴隷として利用されることになった。
だが、ハイパーコーポの間でも多くの抗争が存在している。さまざまな集団や勢力が、ハイテクやリソースを使って主導権を争っている。「ファイアウォール」もそうした集団の一つであり、ほとんどのキャラクターがゲーム開始時に所属する集団として都合が良い(ほとんどの場合、ファイアウォールの工作員としてゲームをプレイすることを想定している。だが、そうでなくても構わない)。
EP の世界には数多くの勢力が存在しており、メインのルールブックには適切な量のサンプルが載っている。いい加減だったり、「キャラクターの属する集団についてはサプリメントのXXXXを参照のこと」などということもない。作成時のキャラクターのために数多くの選択肢がルールブックに載っているし、しばらくは他の製品はいらないほどだ。
キャラクター作成の点でも、EP は手堅いつくりになっている。能力値は基本的に二種類の能力値群に分かれていて、一つ目がキャラクターのエゴ、もう一つがモーフだ。キャラクターのエゴは精神、モーフは身体を表している。従って、まず精神能力値群と知識(技能)を決めて、それから開始時に使うモーフを選ぶことになる。(中には「サイバー空間」にだけ存在するキャラクターもいて、そうしたキャラクターは実質的にモーフを持たない)。
ハイテクが好きなプレイヤーなら EP が気に入るだろう。ほとんどすべてのキャラクターが「コーティカル・スタック(大脳皮質スタック)」と呼ばれるハイテク・ガジェットを持っているからだ。これはキャラクターの精神を常時記憶しておける超テクノロジーの「フラッシュ・ドライブ」であり、自分のエゴを新しいモーフに差し替えたり、転写したりすることができる代物だ。ただ、コーティカル・スタックがあってもモーフが買えなければ役に立たないし、誰かが新しいボディに「着替え」られるような場所に連れて行ってくれたりしないと無意味だ。
EP の世界では、コーティカル・スタックはどこにでもあり、持っていたとしても別に珍しくもないし、不利にもならない。
キャラクターが自分のエゴを新しいモーフに簡単かつ素早く突っ込めるようにすることで、キャラクターシステムでは精神と身体が明確に分かれており、これが EP のシステムに大きな影響を与えている。
EP で「再生」が可能であることの良い点は、キャラクターは自分が死んでもミッションを継続でき、プレイヤーはそのキャラクターを使い続けることができ、そしてよりドラマティックなロールプレイを支援しているとういことだ。一方で、「再生」にはペナルティが伴うことによって、馬鹿げた行動を取りにくくなっている。
キャラクター作成はポイントで長所と短所を買っていくシステムで、ポイントは大量に貰える。だが心配しなくていい。使い道には困らないだろうから。
それ以外のシステムについては、わりとまっすぐなパーセント式のダイスロールだ。d10を二つ使う。ゾロ目は特別な成功か失敗になる。成功率の高さに合わせて特殊な成功が出やすくなり、逆に低いほど特殊な失敗が出やすいという、このシステムが気に入っている。僕はスキルの高低に関係なく固定した結果の出る「規則正しい」クリティカル・システムが好きじゃないんだ( EP にも 00 と 99 が必ず特殊な結果になるという、そういう痕跡もあるけど、それはまあ我慢できる)。いろいろなシステムが規則正しいクリティカルから全体的な成功率の高低に合わせて特殊な成功/失敗の率も変わるような方式に移ってきているようで、僕は嬉しい。
出目が特に高かったり低かったりしても、特殊な成功/失敗が起こる。行動の中には、「成功の差分」が基本になっているものもあり、また、最も差分が大きいキャラクターが成功するような判定もある。
通常は1ターンに1回行動できるが、モーフの速さなどさまざまな要素によっては追加行動が得られる。
とにかく、このゲームシステムはクリーンで、機能的で、効率がいい。その上、出目を変えたり良くしたりできる「モクシー(元気)・ポイント」というヒネリも入っている(もうちょっと別の名前は思いつかなかったのかなぁ?)。モクシーを1点使う毎に出目を「ひっくり返す」ことができる。例えば、出目91の破滅的な失敗を出目19の大成功に変えられるんだ。こういう風に上下を入れ替えるやり方が以前には無かったように思うんだが、ともかく、ほとんどのd100システムでこのやり方はうまく行くように思うね。
世界設定に話を戻そう。ハイパーコープ、プライベートな組織、委員会、陰謀集団、エイリアンなどのどの集団に入っても、権力を追求したり、他勢力による支配から逃れたり、単に生存を目指したりする自由がある。進行中の陰謀もあり、邪悪な権謀術数がうごめき、中には単に善意の人々も存在するし、しばしば悪事を止めようとしているだけのこともある。プレイヤーは、社会主義者にも、無政府主義者にも、帝国主義者にも、ありとあらゆるイズムの者になることができる。超人類に進歩することも、旧来の人類の姿に戻ることもできる。あるいは自らを「スカム」と呼ぶ者にすらなれる。新たなハイと快楽とを単純に追求する快楽主義者だ(その通りだよ諸君。キャラクタークラスに「スカム(=人間のクズ)」ってのがあるんだ)。
これでも満足できないようなら、エイリアンにもなれるよ。表面上は善良に見える、高度に進化した粘菌集団もいる。太陽系に役立つ助言を与えようとやってきたようだがね。だが彼らは非常に謎めいていて、その素性やさまざまな重要項目についてはきわめて口が堅いんだ。特定の集団とも仲が悪い。
とにかく、この世界はよく描かれているし、よく考え込まれている。
システムや世界設定という点では、EP はかなりいい製品と言える。最大の問題はその作成過程にある。
洗練されていてプロフェッショナルな製品で、ステキなイラストやアートワークもある。だが誤植、スペルミス、間違った文法があちこちに存在する。きちんとしたエラッタを提供して、誰かが数日かけてこの PDF を校正すればそのほとんどは修正できるだろう(注釈:現時点では、既に校正済みの PDF が入手できるし、妥当な修正が行われている。ファンへの心配りを忘れないスタッフたちに賞賛を贈りたい)。
アートのほとんどは良いが、中には期待したほどディティールの良くない兵器の絵もある。こうした問題を除けば、製品の価値はそれなりに高い。
他に気になったのは、いくつかのハイテク用語の使い方が誤っている点だ。 "Nuclear batteries" という用語がよく使われているが、僕にはよく分からない。現在でも radio thermal generator (原子力電池) というものがあり、これが著者の言いたかったものなのだろう。だが、長期間にわたって機器を稼動させるためのものとして描写されており、RTG は確かにかなり長い年月発電し続けるが、これは電池ではなく、発電機だ。また、短時間に高出力を要求するような、例えば個人用のレーザー兵器などもおかしい。最後に、RTG や "Nuclear Battery" は何年にもわたって一定量の電力を発生するが、本書では充電が必要だと書いてある。1時間あたり20ポイントの割合でだ。もし RTG が蓄電システムをこの速度で充電するのだとしたら、新しいクリップを挿入して発射できる個人用レーザーシステムにかかる充電時間は、現在でもそんなにはかからない。技術コンサルタントか編集者の手を借りるべきだったろう。
装備が重要な役割を果たすゲームの割には、EP にはカスタム装備の設計システムがない。宇宙船のデザインや、移動、戦闘についてのルールもない。将来的に出るのだと期待しよう。
エクリプス・フェイズが最も競合する相手としては、未来のホラーと陰謀劇という点では CThulhutech、超人類という点では(GURPS) Transhuman Space が挙げられると思う。本作はオリジナリティやゲームシステム( Cthulhutech はゲームシステムに大きな問題を抱えている)という点で Cthlhutech より優れているし、プレイのしやすさとシナリオの作りやすさ、それにフルに楽しむのに大量の(GURPS)サプリメントを読まなくてもいいという点で THS を凌駕している。
そんなわけで、エクリプス・フェイズに対する僕の採点。世界設定に10、システムに9、製品としての総合点に8(校正やエラッタが出ればもっと)を与えようと思う。(PDF の第2版には9点。typo が直ってるからね)
最後に。もしあなたが PDF を手に入れたなら、作者たちにお金を送ってほしい。その15ドルは今僕たちの業界が抱えている壊滅的な経済状態を救うだけではなく、作者たちにはそれを受け取るだけの仕事をしているし。だから彼らに15ドルを送るか、新しいサプリメントが出たら是非買ってほしい。彼らはこのチャンスに賭けているし、大変な時間と労力を注いでいる。彼らの努力に報いてあげよう。